シルクスクリーン版画
伝統と革新が織りなす、究極のシルクスクリーン版画
シルクスクリーン版画とは、1色ごとに専用の版を用い、インクを丁寧に刷り重ねていく技法です。機械的な印刷とは異なり、色の重なりや質感、微妙なニュアンスが手作業で作り上げられるため、唯一無二の存在感を持つ作品が生まれます。この技術は、アートとしての価値はもちろん、職人技の粋を極めたものとして評価されています。
今回の制作では、京都で創業80年の伝統的な工房に協力を依頼し、版画の歴史に新たな挑戦を刻むプロジェクトを実現しました。通常、シルクスクリーン版画は3〜4版で製作されることが多い中、特別に2倍の「7色版」を制作。これは単に技術的なハードルを超えるだけではなく、色彩の重なりや精度が問われる、版画職人としても前例のない、信じがたい難易度の挑戦です。
職人たちは、各色ごとにミリ単位の精度で版を調整し、一版一版を手作業で刷り上げていきました。この過程では、色彩が混じり合うポイントや発色を最大限に引き出すために、試行錯誤を繰り返しました。その結果、目を奪うような美しい色彩と深み、そして繊細なディテールが作品に宿りました。
さらに、紙には最高品質の素材を厳選し、日本の伝統的な和紙の技術を用いることで、作品の風合いと耐久性を高めています。和紙がもたらす柔らかな質感とシルクスクリーンの重厚な発色が融合し、一見すると版画であることを忘れてしまうほどの存在感を放っています。
このシルクスクリーン版画は、伝統工芸の継承者たちと現代アートの先端が一体となり、極限まで磨き上げられた技術と感性の結晶です。唯一無二の美しさを、この作品を通じてぜひ感じていただきたいと思います。
版画の本質を守るために知っておきたいこと
近年、美少女アート市場ではインクジェットプリントを「版画」と誤認・詐称して販売する事例があります。しかし、版画とは本来、職人が一色ごとに版を製作し、手作業で刷り上げる技法を指します。そこには多大な労力と高い技術が必要であり、機械的なプリントとは一線を画するものです。特に、現代の美少女アートのような複雑な色彩や細部を伴う作品を本来の版画技法で制作する場合、数万枚、場合によっては数十万を超える版を用意し、同じ回数だけ正確な位置合わせ(見当合わせ)を行い、1枚1枚を手作業で刷る必要があります。これには膨大な時間とコストがかかり、現実的には極めて困難なプロセスです。実際に今回XARTのシルクスクリーン製作を担当した熟練の版画職人であっても、一般的な美少女アートを版画で制作することは不可能であることを断言しています。
そのため、正当な版画技術で制作された作品は、職人技の結晶ともいえる非常に高い希少価値を持ちます。一方、インクジェットプリントはデジタル技術を活用してイラストレーターの描く線や色を精密に再現することができるため、それ自体に独自の価値がありますが、「版画」とは本質的に異なるものです。
私たちは、本物の版画の価値を守ると同時に、購入者の皆様が正確な情報に基づいて作品を選べる市場を目指しています。作品購入の際は、技法や製作過程について透明性のある説明がされているかをご確認いただき、真に手間と技術が込められた作品の魅力を楽しんでいただければ幸いです。
正しい情報が流通することで、版画文化の伝統が次世代へと引き継がれることを願っています。
シルクスクリーン版画制作の様子
正当な版画であることを証明するために、私達は製作風景を公開いたします。
職人技
シルクスクリーン版画は「データ処理」「製版」「印刷」という工程があります。色別にデータを分け、メッシュスクリーンに製版していきます。
印刷に使用するインクの色は印刷職人が原画の色を目で判断して完璧に調合します。調合されたインクは印刷職人によってスキージー(ヘラのようなもの)で刷っていきます。すべての工程で卓越した勘と経験とコツ、つまり長い経験に裏打ちされた「熟練の技」が必要です。
7版
シルクスクリーン版画における「版」とは、色ごとに作る型のことで、これを順番に重ねて刷ることで作品が完成します。一般的に3版の版画は「3層のケーキを作る」ようなもの。一層ずつ丁寧に重ね、見た目やバランスに注意すれば完成しますが、それでも十分に手間がかかります。
一方、7版は「7層のタワーケーキ」を作るような作業です。一層でも位置がずれると全体が崩れ、作業は失敗。さらに、各層に異なる装飾を加え、正確な位置合わせを7回繰り返す必要があります。この繊細なプロセスは、単純に版が多いだけでなく、難易度が飛躍的に上がるのです。
7版の版画は職人技とアートへの情熱が生んだ結晶。その価値をぜひ感じてください。
イラストレーター
夜星アウルの挑戦
版画制作には、最低線の太さや色数制限など、厳しいルールが課されます。原画を担当した夜星アウル先生にとっても、これらの制約は大きな挑戦でした。本来緻密な線画を得意とする先生にとって、線の太さの制限は特に難題。しかし、先生はその制約を「新しい可能性」と捉え、作品の魅力を損なうことなく仕上げる方法を探り続けました。
制作過程では、細部へのリテイクが何度も発生し、「この線を少し太く」「この色を調整」といった修正が繰り返されました。それでも先生は常に気さくに対応し、妥協を一切せずに作品を磨き上げていきました。
こうして完成した版画は、厳しい条件を超えた挑戦の結晶。夜星アウルの熱意と職人技が融合した、唯一無二の作品となりました。
不可能を可能にした、職人たちとの絆の物語
少しでもカラフルな絵を制作したいイラストレーターとしての矜持と、受けるからには完璧な版画を作りたい職人の信念がせめぎ合う。7版ものシルクスクリーン版画を制作するという挑戦。それは、私たちにとっても、職人にとっても、未知の領域でした。京都で創業80年を誇る老舗の版画職人に相談した際、まず返ってきた答えは「難しい」。技術的にも時間的にも、これまでの経験を超える大きな挑戦であり、実現は厳しいと告げられました。
それでも、私たちは諦めることなく、自分たちの想いを何度も職人に伝えました。この作品を通じて新しい価値を生み出したい、伝統技術を未来に繋げたいという熱意を言葉にして、粘り強く交渉を重ねました。そしてある日、私たちの想いが職人に届き、「やってみよう」と承諾を得ることができたのです。
後になって知ったことですが、私たちの依頼を一度断った職人は、その後すぐに京都の版画職人仲間に相談し、実現の道を模索してくれていました。「できない」と言いながらも、その裏で自らも葛藤し、新しい可能性を探ってくれていたのです。その姿勢に触れたとき、伝統を守る職人たちの誇りと責任、そして挑戦への意欲に深く胸を打たれました。
こうして生まれた7版シルクスクリーン版画は、単なる作品にとどまらず、職人たちとの絆の証とも言えるものです。技術的な限界を超えるだけでなく、熱意と信頼が結実したこのプロジェクトは、伝統と革新が出会う新しい可能性を示しています。
私たちの熱意に応えてくれた職人たちとともに生み出したこの作品が、多くの人の心に響くことを願っています。これからも、共に新しい挑戦を続けていきたいと思います。